高倍率マクロ撮影における絞りと解像度

高倍率マクロ撮影では撮影倍率を上げれば上げるほど被写界深度(ピントが合う範囲)が狭くなって行きます。 絞り込むと被写界深度を上げる事ができますが、回折という現象により、絞り込むほどに解像度が低下します。 これらの現象は、撮影倍率を上げるほど顕著になります。

このため立体的な昆虫等の撮影においては 絞りの選択が非常に重要になると思われるのですが、 その関係を具体的に示された資料がネット上で見つかりません。 しょうがないのでいろいろ調べてまとめてみました。


目次


1. 分解能

一点から出た光は理想的なレンズを通しても一点には収束しません。 回折と呼ばれる物理的現象によってぼやけた点になってしまいます。 実際には複雑な分布をするのですが ほとんどの光は小さな円内に集まります。 この円をエアリーディスクと呼びます。 エアリーディスクの半径は レンズに入射する光の角度(θo)あるいは レンズから射出する光の角度(θi)によって決まります。

分解能は、 レイリーの判断基準によればエアリーディスクの半径を分解能とします。 顕微鏡では物側分解能が使われますが、 ここでは像側分解能に限って話をします。 像側分解能δiは以下の式で表す事ができます。
たぶん…
—— 式(1)

ここで、

NAi: 像側開口数
Nwi: 像側実効F値
N: 公称F値
m: 倍率 = Di/Do
Di: 像面の直径
Do: 物面の直径

2. 解像度

像面の直径(撮像素子の対角線の長さ)を像側分解能で割った数を ここでは解像度とします。 つまり解像度rは、
—— 式(2)

以下に解像度1600,1200,800,600のサンプルを載せます。 1600まで出ているかどうかはアヤシイです。 一万円札の一部をE-410 + 35mmマクロ + EC-14、0.7倍で撮影しました。 画像の大きさは2560x1920ピクセルです。 平面になっていないのか、ピントがうまく合わないので深度合成ソフトを使ってます。 下は全体像です。

下はオリジナルです。やや重い(約1MB程度)です。
1600本(F11)
1200本(F16)
800本(F22)
600本(F32)

下は、ピクセル等倍で切り出したものです。

3. 公称F値で指定する場合

マクロレンズ(ものによる)、ベローズ、延長リング等の方法で撮影する場合は、 公称F値での指定になると思います。 リバースも同じだろうと思いますが、よくわかりません。

公称F値Nと解像度rの関係は、式(1)と(2)から、 以下ようになります。
—— 式(3)

あるいは、m = Di/Doなので、以下のように表す事もできます。
—— 式(4)

つまり、F値に反比例し、倍率mにもおよそ反比例します。 以下の表は、解像度1600本、波長λ = 550nmの場合の 像面のサイズと物面のサイズに対する公称F値です。 1600本以外の場合は簡単に計算できるので、 自分の使うイメージサイズの行を覚えておくと良いでしょう。 1600本以外の場合、 解像度はF値に反比例しますから、 F値を倍にすれば解像度は半分になります。 例えばAPS-Cサイズのデジカメで4倍相当の撮影を行う場合(横幅9mm)、 F6.3に設定すれば1600本程度の解像度を得る事ができます。 一段絞ってF9にすれば解像度は1/1.4の約1200本に、 2段絞ってF13にすれば解像度は1/2の800本になります。 ここでは回折ボケしか考慮していませんが、 実際にはレンズの解像度や画素数の制限などによって、 これより悪くなる場合があります。

イメージサイズ36mm(等倍相当)18mm(2倍相当)9mm(4倍相当)4.5mm(8倍相当)
35mm 16.8 11.2 6.7 3.7
APS-C 13.2 9.5 6.1 3.5
FourThirds 10.9 8.2 5.5 3.3
Nikon 1 9.0 7.1 5.0 3.1
2/3 inch 6.6 5.5 4.1 2.8
1/2.3 inch 4.9 4.3 3.4 2.4

4. クローズアップレンズを使う場合

ここではカメラ側の焦点を無限遠に合わせた場合のみ考える事にします。 カメラ側の焦点を変えた場合についてはよくわかりません。

カメラ側の焦点を無限遠に合わせ、 クローズアップレンズを付けたとします。

クローズアップレンズ側では、けられないとすると、 像側の射出角度θiは無限遠で撮影する場合と変わりませんから、 解像度はクローズアップレンズを付ける前と同じになります。 つまりカメラで指定したF値をNとすると、

となります。 したがって解像度は像面の大きさと絞りのみで決まり、 撮影倍率には依存しません。 以下に解像度1600本、波長λ = 550nmのときの イメージサイズごとのF値を示します。

35mm 41.9
APS-C 27.2
FourThirds 20.1
Nikon 1 15.4
2/3 inch 10.2
1/2.3 inch 7.2

表を見てわかるかと思いますが、 ほとんど指定可能な上限まで絞らないといけません。 被写界深度を得るために、絞り込むという手段が選択できません。 例えば、APS-Cサイズのカメラで800本の解像度にするには F56程度まで絞り込む必要がありますが、 そんなには絞り込めません。 これはクローズアップレンズによる撮影方法の問題点の一つです。 テレコンを使うといくらか改善できます。

参考ページ

Wikipedia英語版 Airy disk
Wikipedia英語版 Numerical aperture
Wikipedia英語版 F number


履歴

2012年2月4日:書き直しました。